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232列車

 さっきまで西の空はぼんやりと明るかった。僕はブラリと駅に向かう。外は土とほどよい湿気が混じったような春の暖かい匂いがする。
 山都駅の待合室には塩川から汽車で通っている僕の担任のT先生が椅子に座っていた。
 「また写真撮りか」
 T先生は呆れた顔でそう言いながら改札口を出て行った。
 T先生は車の免許を持っていなかったので塩川から汽車通をしていた。朝は223列車(たった二両の旧型客車編成でメルヘン汽車として有名)で山都に来て、塩川に帰るのはこの232列車だ。
 僕はふと思った。つくづく大人は大変だな、と。T先生にも当然のように家庭があって、塩川の自宅に到着するは余裕で18時を回るだろう。それからごはんの支度をして、なんやかんやと家事をこなして明朝7時の汽車に乗ってまた山都に来るのだ。しかも山都駅と山都一中は決して近い距離ではない。そう思うと、大人は一体いつ寝ているのだろうか。大人は眠くならないのだろうか。
 僕は、勤務を終えて普通の主婦に戻った表情でこちらに手を振るT先生を見ながらそんなことを考えていた。



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 232列車 山都駅 1983年

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